軍と2隻の艦艇が持つ意味
軍と2隻の艦艇が持つ意味


 ◆準軍事力と軍の協調

 日本では海洋調査船と呼ばれている、中国の国家海洋局所属の東海海監総隊、「海監46号」「海監51号」が昨年12月8日に、日本が実効支配している尖閣諸島(中国名・釣魚島)の海域に入った。

 日中関係だけでなく、中国内政をとらえるうえでも、このことの意味合いは非常に大きい。中央軍事委員会主席を兼ねる胡錦濤国家主席が事前に把握し、同意していたのかどうかを考えてみたい。

 「両国政府が東シナ海のガス田共同開発で合意したことに対し、軍などには不満の声があった。対日関係を重視する胡主席は知らなかった」「知らなかったとすれば軍との関係が不正常だ」「江沢民・前国家主席の勢力が干渉した可能性が大きい」など、さまざまな見方が流れているからだ。

 海洋強国を目指す中国では、海洋権益問題は、大まかにいえば軍の影響下にあり、海洋局も軍の意向を強く受ける部門だ。2隻の艦艇は中国では「執法編隊」とされ、いわば海上警察に相当する。

 中国では、近海上での法執行機関として、海洋局以外に交通省に属する海事局、公安省辺防管理局の海警部隊がある。これらの部門を「準軍事力」(関係筋)と位置付け、その強化と海軍との協調態勢を整備しつつあり、「軍・警結合の海上警備態勢の構築を始めている」(中国紙)。例えば、2年前に退役した「江湖」級護衛艦が専門の設備を施されて海警部隊に引き渡されたりしているようだ。

 ◆綿密に準備された計画

 中台情勢の緊張が解けていることもあり、こうした海の「執法部隊」が東シナ、南シナ海での動きを活発化させるのは間違いない。海監総隊の孫書賢副隊長は「この海域(尖閣周辺とみられる)での管轄を強化する」と述べている。関係筋はその理由について、「例えば、釣魚島を含む東シナ海に中国が海軍艦艇を派遣、日本の海上保安庁の船舶との間で不測の事態が起きた場合、国際世論上、中国は不利になる。だからこそ、『執法部隊』は(領有権で対立する海域が)中国の主権下にあることを有効に示す存在なのだ」と話す。

 「中国が釣魚島における日本防衛ラインを突破 主権を示す」。中国紙、国際先駆導報はその1面トップにこんな見出しを掲げた。

 同紙は専門家の分析として、▽中国が行動した午前8時は基本的に日本側の監視交代時間帯だった▽中国側の2隻は05年に就役した新型で近代化装備を施しており、現場の海保船舶より能力が上だった−などとし、「綿密に準備された計画だった」と指摘している。

 ◆軍掌握の意思表示

 海軍増強を目指し航空母艦の建造を本格化させる中国軍が、潜水艦による外洋活動をとみに強めていることは、米軍も確認ずみだ。昨年10月中旬には東海艦隊の戦闘艦が津軽海峡を通過するなど、その動きは突出しており、軍関係者による強硬論文も相次いでいる。

 「予算獲得に向けた新たな口実を作るために緊張要因を必要としている」との解釈も確かにある。だが、戦略ミサイル部隊(第2砲兵)の整備を加速させていることや、10月1日の国慶節(建国記念日)の軍事パレードが最新兵器を前面に出して史上最高水準、最大規模で行われることをみれば、明らかに軍の発言力は増している。

 同時並行的に、胡主席の軍視察も増えている。主席は1月下旬には井崗山(せいこうざん)(江西省)に赴いた。

 井崗山は、毛沢東氏が独自の革命理論を最初に実践した、いわば中国革命の聖地で、毛氏は1965年の井崗山再訪後に、文化大革命を発動して政敵を倒している。

 一部観測筋は「(これは)軍掌握に向けた節目。(今も)一定の力を維持する江沢民氏をにらみ、中央軍事委の整頓を目指す(という胡氏の)意欲が(視察の)背景にはある」との読み方をしてみせた。実際、胡主席を除く中央軍事委副主席2人と同委員8人の半数は、江沢民時代に任命され、今年には退任してもおかしくない67歳になる。今後、胡主席による大将任命も増えると予想される。視察は、そうして軍を掌握すると意思表示したものだとの見方である。

 9時間余に及ぶ先の2隻の行動は、海洋局が軍と打ち合わせたうえで取ったとみるのが自然だ。日中外交筋は「胡主席は具体的な作戦行動は知らなかったかもしれないが、大まかな方針、施策の枠内で把握していただろう」とみる。

 ある中国高官は「海洋局の判断だろう」と強調するが、中国の関係筋はさらに踏み込んで、「軍の発言力が高まり、胡主席が軍への影響力を高めようとする時期でもあった」と指摘、「公海ではなく双方が領海として争う海域における作戦内容で胡主席が知らなかったことはあり得ない」と断言した。(中国総局・野口東秀・産経)