【すごいぞ日本】ファイルXIII 「私」パワー(1)ティアラはなぜ輝くのか
【すごいぞ日本】ファイルXIII 「私」パワー(1)ティアラはなぜ輝くのか


 深紅の絨毯(じゅうたん)を敷き詰めたステージに並ぶ若い女性。純白のドレスを身にまとったその女性たちは誰一人同じでは…あれ? よく見ると同じですねえ。メークも髪形も、背の高ささえも異なる15人は実は、同じ一人の女性だった。

 昨秋、東京都写真美術館の「日本の新進作家展 On Your Body」で公開された写真家、澤田知子さんの最新作『Tiara』はミスコンをテーマにした縦1・5メートル、横3メートルの大作だ。母校の講堂を借り、立ち位置を決めて端から1枚ずつ、15人分の自分を写していった。

 1回ごとに髪形もメークも変えロングドレスに隠れた靴のかかとで身長の高低差を出す。なぜ「私」なのか。写真展に寄せて澤田さんは≪ミスコンのスタイルを引用し、日本の比較することで決まる美しさに対する違和感から生まれた作品です≫と書いている。

 ≪身分証明書の写真≫

 澤田さんの作品は常に自分が被写体である。

 すぐれた新人写真家に贈られる木村伊兵衛写真賞とニューヨークの国際写真センター(ICP)の新人賞を26歳で立て続けに受賞したのは2004(平成16)年の春だった。そのとき評価の対象となったデビュー作「ID400」も、さまざまな人物に扮(ふん)した自分の身分証明(ID)写真400枚を集めた作品だ。

 滋賀県大津市にある成安造形大学の学生だった1998年から99年にかけて制作し、卒業前の2000年春、キヤノンの写真展に応募して特別賞を受賞した。その直前に東京の画廊で写真展を開き、たまたま画廊を訪れたフランス人キュレーターから、フランスで開くグループ展への出品も要請されている。

 さらにそのフランスの展覧会を見た別のギャラリー関係者からベルギーでのグループ展にも誘われた。大西洋を隔てたニューヨークでは02年の秋から冬にかけて、ICPや老舗画廊のザブリスキーギャラリーなど3カ所で相次いで作品が公開され、「この子だれ?」と評判になる。

 ザブリスキーギャラリーのディレクターはインターネット検索で澤田さんの作品を見つけ、一緒に仕事をしたいと連絡してきたという。02年12月のグループ展に続いて03年7月には彼女の個展も開かれ、澤田さんは「半世紀の画廊の歴史の中でも、ネットで拾った作家はあなただけだ」とオーナーから言われた。

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 ≪世界の画廊から誘い≫

 お見合い写真や花嫁衣装、キャバクラ嬢など澤田さんはその後もセルフポートレート(自画像)の作品を発表し、写真界の注目を集めた。「ID400を作るまでは生みの苦しみでしたが、それ以後はアイデアが途切れたことはありません」という。

 一人の私、たくさんの私。さまざまに変化が可能な「私」への強い関心は社会との距離を懸命に測ろうとする現代の若い女性に共通する感覚なのかもしれない。澤田さんは07年秋からニューヨークに拠点を移し、現在は文化庁の新進芸術家海外留学制度で写真芸術の最前線を学ぶ身だが、その間も世界中から作品展の誘いがくる。昨年秋、一時帰国したときにも「画廊は常に探していますね。いまもいろいろな国の画廊から一緒にやりませんかとオファーが来ています」と話していた。

 どうも最近は女性の方が勢いがある。何年か前から企業の採用担当者の間でもそんな会話が交わされるようになった。金融危機の中で萎縮(いしゅく)する日本社会の閉塞(へいそく)感を打ち破るものは何か。一つのキーワードとして女性の「私」パワーに焦点を当てよう。(宮田一雄・産経)