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≪国内要因だけでない挑発≫ 北朝鮮の挑発行動が加速している。4月5日に衛星打ち上げと称して長距離弾道ミサイルを発射し、5月25日には2回目の地下核実験を実施した。ほかにも、韓国との境界線合意を無効とする一方的宣言を行い、新たなミサイル発射基地を建設して、発射を準備している兆候があると伝えられる。2006年のミサイル発射と初めての核実験の時と比較しても、北朝鮮の行動のペースは早いように見える。 なぜ北朝鮮は今、こうした行動をとるのか。最近しばしば語られるのが国内要因説である。昨年夏に金正日総書記に病変が起き、金総書記の健康問題および将来の指導者の後継問題が急浮上した。後継候補として3人の息子(正男、正哲、正雲)や義弟の張成沢氏などの名前があげられ、一部には三男正雲氏が後継者に決まったなどとの報道もある。 しかしこの見方には留保が必要である。金総書記が昨年、病に倒れたことはほぼ確実だし、北朝鮮指導層の中で後継体制に向けた動きが浮上している可能性も捨てきれない。こうした動きは中長期的には重要である。しかし現在の北朝鮮の挑発行動と北朝鮮内部の状況を結びつけてあれこれ憶測しても生産的ではないだろう。 結局、北朝鮮の内部事情が対外政策にいかなる影響を及ぼしているかについてはほとんど分からない。更に最近の一連の動きは確かに急激であるにしても統制はとれており、北朝鮮の指導層内部での分裂を裏づける要素はない。 ≪すでに6者協議は望まず≫ 当面の所、北朝鮮の動きは国際要因によるものと考えるのが妥当であろう。そのように理解しても北朝鮮の行動は説明がつく。 北朝鮮の行動の基本的な動機は、オバマ米新政権の対北政策であろう。発足当初、北朝鮮にはオバマ政権が融和的になるという期待があったようである。今年の年頭共同社説において北朝鮮各紙は「朝鮮半島の非核化」に言及し、「われわれに友好的に接する国々との関係を発展させ、世界の自主化偉業の達成に大いに寄与する」と述べていたのはこの期待の表れであろう。しかしオバマ政権は北朝鮮の核放棄を求める姿勢を堅持し、いら立った北朝鮮が、「平和目的」を掲げた長距離ミサイル発射から核実験へと挑発行動を高めていると見ることができる。 もう一つの要因は韓国である。対北融和策をとった盧武鉉前政権に対して李明博政権は日米協調、対北圧力路線に傾きつつある。北朝鮮にとって韓国は経済協力による利益よりも、日米の圧力をかわす風よけとして重要な存在であろう。その韓国の姿勢が変化したことで、北朝鮮は韓国との緊張を高め、韓国世論を分裂させて日米韓協力体制にくさびを打ち込もうとしているように見える。盧武鉉前大統領の死去に伴う国内論争は好機と見えているかもしれない。 こうした挑発行動を通じて北朝鮮が最終的に望んでいるのは、米朝対話による体制への保障の獲得であろう。日米韓が結束を強め、中国、ロシアも一定の協調を示している現下の情勢での6者協議への復帰を北朝鮮は望んでいまい。むしろ米朝2国間対話を期待しているのではないか。 日本を含めた米韓中露にとっては、北朝鮮の更なる挑発行為を封印したうえで、6者協議に復帰させることが望ましい。国連安保理が対北制裁決議案を採択する方向だが、北朝鮮はどうでるか。アメリカが軍事力を行使すれば、あるいは中国が完全禁輸に出れば、金正日体制を倒すことはできるかもしれない。 しかし後に残された二千数百万の北朝鮮人民に対して責任をもつ意志と能力をもつ国が見当たらない以上、この選択肢はとれない。 ≪制裁にテロ国の再指定も≫ それ以下の制裁では北朝鮮を反発させ、更なる挑発行動に駆り立てる可能性が高い。しかし北朝鮮の明らかな国際法違反に対して報酬を与えるわけにもいかない。 ここに北朝鮮問題の難しさがある。それでも何かの制裁をし、北朝鮮指導部と意思疎通を図り、制裁解除を条件に対話の窓口を設定する他ないであろう。アメリカのテロ支援国の再指定はその手段となるかもしれない。 日本は既に制裁措置を積み重ねているので、制裁を強化する余地は少ない。他国に制裁を働きかける一方で、北朝鮮の挑発行動を抑止し、北朝鮮が不法な行動に出た場合には事態を限定するよう迅速に対処する備えが必要である。 結局、北朝鮮の核およびミサイル放棄や拉致問題の解決は、北朝鮮の政権交代、すなわち金総書記の指導能力の喪失や死去といった事態が起きないと望み薄である。それはいらだたしいことではあるが、北朝鮮が事実上、独裁的王朝体制下にある以上やむを得ない。その日はそう遠くないかもしれない。その時に備えて、北朝鮮の挑発を危機へと拡大させず、北朝鮮の体制変化を受けとめる国際環境の構築を図る事が、現在とりうる最善の方策であろう。(産経【正論】京都大学大学院教授・中西寛)
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