民主党の保守派にも正念場だ
民主党の保守派にも正念場だ


 ≪鳩山代表に求めるべきは≫

 3月2日付の本欄でおおよそ次のようなことを述べたことがある。本年中に必ず行われる衆議院選挙によって民主党を中心とする政権の誕生する可能性が高く、そうなれば、これまで過去に同党が提案してきた選択的夫婦別姓の導入、定住外国人への地方参政権の付与、靖国神社に代替する国立戦没者追悼施設の建設など、総じてわが国の歴史・伝統や主権を損なう左派リベラル色の濃厚な政策が小沢一郎代表の豪腕でもって相次いで実現することが予想され、保守派は「まさに正念場を迎えることになろう」と。

 偶然というか、その翌日に小沢代表の公設秘書が政治資金規正法違反の容疑で逮捕され、その後に行われた新聞各紙による世論調査では民主党の支持率が軒並みダウンし、久しく続いてきた自民党への逆風が弱まって、政権交代に「?」マークが点(つ)きかけた。それも一時のことで、代表退陣を求める強い国民世論を受け、2カ月余たった5月11日に小沢代表が辞任して鳩山由紀夫新代表に交代するや、再び民主党の支持率が自民党のそれより上回るという目まぐるしい動きを見せている。

 予想外に素早く発足した鳩山新体制に対し、新たに代表代行に就任した小沢氏の“傀儡(かいらい)”とか“院政”とか批判する声が依然としてくすぶっていることに鳩山代表は苛立(いらだ)っているようだが、そうであればあるほど、これまで「政策よりも政局」を基調音としてきた小沢路線を継続することは許されず、真に政権担当能力があるのか否か、厳しく問われ続けなければなるまい。

 ≪地方参政権も靖国神社も≫

 その意味で5月27日にようやく実現した党首討論は注目を集めたが、残念ながら議論がすれ違って本格的な論戦にならなかった。17日に2回目があるようだが、国会も大幅な会期延長となったのだから、回数もできるだけ多い方がよい。今回は外交や安全保障、公務員制度改革、消費税導入といった基本国策にとどまらず、私たちが危惧(きぐ)する先記した諸政策についても率直な見解を表明してほしい。鳩山民主党の目指す方向を正しく認識するためにも…。

 たとえば、鳩山代表は外国人への地方参政権付与に当初から積極的な推進派であり、つい最近もインターネットのある動画サイトに出演した時には「日本列島は、日本人だけの所有物ではない」と明言したと報じられている。地方参政権といえども元をたどれば国家の統治権に属するものであり、国の根幹にかかわる重大事をこんな軽い感覚で捉(とら)えることに唖然(あぜん)とするが、先般、韓国国会で海外同胞に対する国政および地方参政権を認める法案が可決されたことをご存じなのだろうか。このままで参政権を付与すれば、在日韓国人は母国と滞在国との二重の投票権を獲得することになるからである。

 もう一つ、国立戦没者追悼施設の構想も、平成13年6月に行われた党首討論において、当時民主党代表であった鳩山氏が小泉純一郎首相の靖国神社参拝に反対して千鳥ケ淵戦没者墓苑の拡充を含めた国立墓地の新設を提案したことがきっかけとなっている。さらに、4年半近くたった17年11月に設立された本構想を推進する超党派の議員連盟「国立追悼施設を考える会(会長・山崎拓自民党元副総裁)」に副会長として率先参加している。いずれにおいても鳩山代表が“確信”的な推進論者であることは疑うべくもない。

 ≪野田議員の態度表明歓迎≫

 もちろん、民主党内にも保守派は健在であり、このような政策が簡単に進められるとは思えない。その有力なリーダーの一人である野田佳彦衆院議員は、月刊『正論』5月号に掲載された「保守の“王道”政治を受け継ぐわが決意」において、きわめて注目すべき見解を明らかにしている。

 すなわち、外国人の地方参政権については「党内には依然として慎重論が根強い」ことをあらためて明らかにし、「靖国神社に代わる新たな施設」も「そこに魂がなければ追悼の施設になりえません」と指摘、いずれに対しても慎重な姿勢を示して、「次期衆院選のマニフェストに盛り込むべきではない」と訴えているからだ。

 野田議員の言やよし。しかし、マニフェスト(選挙公約)に載せないだけでは政治の担保として決して十分とは言えない。政権を獲得した後にマニフェストに入っていなかったことがらが新たな政策として実施されたケースは過去に少なからずあるからである。万が一、そういう事態が出来(しゅったい)したならば、民主党の保守派にとっても深刻な「正念場」となるに相違あるまい。

 したがって、もしマニフェストにこだわるのならば、「…をします」というポジティブ・マニフェストだけでなく、「…はしません」というネガティブ・マニフェストも併示すべきではないか。それは自民党においても同様である。それでこそ、選挙の争点がより明確になり、国民の選択に大きく資することができよう。(産経【正論】国学院大学教授・大原康男)