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もし、パキスタンに核兵器がなければ、国際社会はこの辺境の地をまったく気にかける必要がない。もし、パキスタンでテロリストが拡大再生産されなければ、これもまた気にかける必要はつゆほどもない。 確かに、パキスタンは人口が1億6000万人の大国であり、小麦とコメは世界有数の生産高を誇る。しかし、55万人の通常兵力は近隣諸国に向いているし、日米欧は仮にこの国との貿易がなくとも他の国で代用できる。 ところが核を保有し、テロリストが再生産されるとそうはいかない。まして、政治指導者の胸三寸で「核とテロ」という現代の脅威が一気に結びついてしまう危険が常に存在する。 その場合の標的は、おそらく現代の文明であり、象徴としての米国である。 ブッシュ米政権はこれまで、ムシャラフ大統領の統制力に頼ってきたから、政権が崩壊すればとたんに厳しい事態に直面する。イスラム過激派もいる「核つきの軍」を抑えられるのは他にいないとの判断だ。 予想されていたことだとはいえ、今回の下院選でムシャラフ与党が敗北したことで、対パキスタン外交の全面見直しを迫られる。 だから米国では、パキスタンに対して「民主主義を植え付けるべきなのか」、あるいは「ムシャラフの軍事独裁を許すべきか」という、あれかこれかの議論が絶えなかった。 パキスタンの核管理は、そのムシャラフ大統領と2、3人の要人だけしか知らないという。核兵器はパキスタン国内12カ所に分散され、米国はミサイルに載せる核弾頭が幾つあるのかさえ分からない。 米中枢同時テロ9・11のあと、ブッシュ政権は世界の核保有国のうち、もっとも危険なパキスタンに対して核弾頭に安全装置を付けるよう技術提供を申し出た。しかし、ムシャラフ政権は核の米国管理を嫌ってこれを拒否している。 米国の核は、極秘コードをもつ複数の要人が正しいコードを打ち込まないと発射できない。しかし、パキスタン型は核弾頭とミサイルが別の場所に配置され、これを組み立てさえすれば発射できる仕組みになっているという。 最悪の場合は、テロリストがこれらを盗み出して組み立てれば、ただちに発射は可能となってしまう。政権が統制力を失い、軍内部のイスラム過激派が独走する事態になることも否定できない。 特に、パキスタンとアフガニスタンの国境線は、同じパシュトゥン族を分断する形で人為的に引かれた複雑な山岳地帯だ。そこで、パキスタン軍人の親類筋が、アフガン過激派タリバンとしてテロ活動をしているケースさえ出てしまう。 米国は人気凋落(ちようらく)のムシャラフ政権下で、事態収拾の切り札として大統領とブット元首相との連携に期待をつないだ。しかし、ブット暗殺がすべてを台無しにした。国内の投票行動も国際世論も大統領に厳しい。 少数与党のムシャラフ大統領は連立を探ることになるだろう。しかし、ブッシュ政権は軍部内に彼以外の穏健派指導者を探し出し、支援することになるかもしれない。 パキスタンの核管理とその行方は、ひとりパキスタンにとどまらず、北朝鮮、イラン、シリアに連鎖する余地があるからだ。親米ムシャラフの失墜があれば、彼らはそれを教訓にする。(東京特派員【湯浅博の世界読解】産経)
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