【どこへ行くロシア】(下)リベラル派巻き返しの動き
【どこへ行くロシア】(下)リベラル派巻き返しの動き


 ■弾圧  「プーチンなきロシアを」「恥を知れ」−。  3日夕、雪の降るモスクワの地下鉄駅前で、こう叫んだ老若男女が次々と機動隊員に連行された。悲鳴と怒号。騒然となった現場で、拘束を免れた自営業の男性(50)は「言論と集会の自由はない。これがロシアの現実だ」と憤りをあらわにした。

 平和的なデモの弾圧を繰り返してきたプーチン政権は、後継者のメドベージェフ第1副首相が大統領選に当選したこの日も、対応を変えなかった。プーチン氏は退任後も首相として“院政”を敷くだろう。だが、そうした中にあって、政治と経済の両面で国家統制が弱まる“雪解け”の兆候がないわけでもない。

 「私はあらゆる自由のことを言っている。個人の自由、経済の自由、そして自己表現の自由だ」

 「いかなる国家資本主義も21世紀には効果的ではない」

 「国家は経済を支配するのではなく、合理的なルールをつくり、人権を守るべきだ」

 いずれも大統領選に先だち、メドベージェフ氏が公の場で発言した内容だ。同氏に近いクドリン副首相兼財務相などからも、同様の内部批判が相次いだ。

 ■バランス

 プーチン大統領が2000年に就任したとき、現在のような国家統制を意図していたわけではなかった。サタロフ元大統領補佐官は「当初、プーチンが目指したのは、経済発展のために少しだけ自由を制限する『開発独裁』だった。それが、司法の独立すら失われる結果となった」と話す。

 プーチン政権は発足以来、大きく分けて、旧ソ連国家保安委員会(KGB)など治安・特務系省庁出身の「シロビキ」派と、メドベージェフ氏ら「リベラル」派から構成されてきた。このバランスを保とうとしていたプーチン氏は04年、石油大手ユコス社の解体・再国有化に乗り出したころからシロビキに急傾斜する。

 経済発展は、主要産業の国有化や国策企業の創設というシロビキ流の単純な形で追求され、民主化の後退と言論弾圧も加速した。プーチン氏は国策企業の幹部ポストを各派閥に与え人心掌握に活用したため、シロビキは強固な利益集団を形成し増殖を続けた。

 リベラル派から噴出する内部批判は、政権交代を機に、2000年の時点に時計の針を巻き戻そうとする動きともいえる。

 ■権力闘争

 プーチン政権は「2期8年間で国内総生産(GDP)は7割増えた。経済・社会の安定維持が必要だ」と権力の継承を正当化する。だが、ネムツォフ元第1副首相は「高騰する原油価格を考えれば成長はきわめて控えめで、政権は何もしなかったも同然だ」と真っ向から反論する。

 政権は庶民の生活水準の向上やインフラの発展を置き去りにし、貧富の格差や汚職は増大した。非効率な国家企業や大企業の市場独占が、健全な経済発展を阻害している。次期政権は昨年12%にのぼったインフレや国際経済の減速を前に経済改革を迫られている。プーチン氏が「安定」を強調するのも、経済の現実は原油価格頼みであり、脆弱(ぜいじゃく)だからにほかならない。

 “雪解け”の可能性について、ネムツォフ氏は「首相と大統領は二重権力に陥り、最終的にメドベージェフ氏に有利に解決されるのでは」と期待する。これに対し、サタロフ氏は「官僚機構が機能せず、権力闘争が激化している現状にあって、大きな政策変更は不可能だ」と悲観的だ。

 いずれにせよ、前例なき「2頭政治」を前に、次期政権の主導権をめぐる熾烈(しれつ)な権力闘争が始まったことだけは間違いない。(モスクワ 遠藤良介 産経新聞)