|
出版をめぐり情報源の罪を問う異例の裁判が始まった。14日、奈良地裁で開かれた医師宅放火殺人の供述調書漏洩(ろうえい)事件の初公判。崎浜盛三被告(50)は精神鑑定した医師の長男(18)の調書などを閲覧させた理由を「長男が『殺人者』だという誤解を解きたかった」と語っていたが、実際には調書からの引用が大半を占める書籍が出版され、長男らのプライバシーを侵害。自身の思いが伝わらないまま1人法廷に立った崎浜被告は、硬い表情を崩さなかった。 この日、入廷した崎浜被告はダークスーツに白と灰色のネクタイ姿。起訴当時より髪を短く刈りあげ、伏し目がちに着席すると、口を真一文字に結んだ。石川恭司裁判長に呼ばれると、背筋を伸ばして直立。職業を問われると「医師です」とはっきり答えた。 被告人席に戻ると、険しい表情で起訴状に目を通し続けたが、弁護側と検察側のやりとりが激しくなると、何度もスーツの襟元や眼鏡の位置を直すなど、落ち着かない様子もみせた。 「『調書をそのまま引用するようなことはしない』とはっきりと約束していた」。公判前、そう語っていた崎浜被告。だが、平成19年5月に出版された草薙厚子さん(43)の著書「僕はパパを殺すことに決めた」は、調書などからの引用が大半を占めた。「約束が守られず、裏切られたことになると思う」。閉廷後も硬い表情のまま、法廷を後にした。 ◇ ■出版側の不実主張へ 崎浜盛三被告の公判の争点は、鑑定業務が「身分犯」である秘密漏示罪上の「医師の業務」にあたるか否かなどに集約される。他方、弁護側は、検察側の一連の捜査が「政治的、意図的であり、不公平なもの」とも主張していく構えだ。 検察側は草薙厚子さんについても、著書出版に関する刑法上の「身分なき共犯」としての立件を検討した。しかし、その際に「正犯」である崎浜被告が事前に本の内容や出版を知らなかったうえ、草薙さんの取材方法も、秘密漏洩のそそのかしに関して「手段や方法が社会的に是認されるものであれば正当」とした最高裁判例から逸脱しないと判断し、立件を見送った。 ただ、今回の事件では、公権力が介入したことへの是非とともに、草薙さんや講談社関係者に対する否定的な意見は少なくない。 同社の第三者調査委員会の報告書でも、崎浜被告と草薙さん、同社側の間では、コピー禁止▽調書の直接引用禁止▽原稿の事前確認−という「穏やかな約束」が成立していたにもかかわらず、草薙さんや同社側は「すべてほごにした」と指摘。「重大な出版倫理上の瑕疵(かし)がある」と指弾した。また「取材源の秘匿意識が十分でなかった」「公権力介入の要因には、出版社と筆者の脇の甘さが散見される」ともしている。 崎浜被告の弁護人も「草薙さんや講談社は、崎浜被告の信頼や誤解を利用して情報をだまし取った」と批判。公判でも、本の出版に関し「被告は裏切られたと思っている」という主張を織り込む方針だ。産経
|