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■合併先駆け…「優等生」転落 少子高齢化に伴う社会保障費の増大が国民生活を圧迫する中、「小さな政府」を促す地方分権の推進が重要な政治テーマになっている。だが、近隣の自治体がひとつの行政単位として再出発した「平成の大合併」や、国と地方の税財政を見直す三位一体改革の結果、いたるところで歪(ひず)みが生じ、危機に瀕(ひん)する自治体が増えている。地方に何が起きているのか。「分権の壁」をリポートする。 ◇ 「丹波篠山(ささやま)の黒大豆」で知られ、来年で築城400年を迎える城下町、兵庫県篠山市。「街道をゆく」で司馬遼太郎が「封建のころの静かさとたたずまいを遺(のこ)し…」と記したように、人口4万6000人の静かな街だ。そんなどこにでもありそうな自治体が、「優等生」として一躍全国の注目を集めた。 「平成の大合併」(※(1))第1号として平成11年4月1日、旧篠山藩(多紀郡)だった篠山、今田(こんだ)、丹南、西紀(にしき)の4町が合併して篠山市が誕生した。地方分権のモデルケースとなった篠山市には、連日、全国自治体からの視察が相次いだ。その数は計約1000団体、1万2000人に及び、「篠山詣で」との言葉も生まれた。 旧篠山町長から初代市長となった瀬戸亀男氏も一躍ときの人となった。 合併後2年あまりが経過したころに講演した際の記録「今、なぜ合併か」(公人の友社)には、バラ色の未来を期待させる言葉がちりばめられた。合併推進のスローガンは、「サービスは高い方に、負担は低い方に」。瀬戸氏は自信たっぷりに語っていた。 「合併してまずかったということは今のところ私自身は考えていません」 ◇ 合併10年目を迎えた篠山市の今はバラ色とはほど遠い。 市のボランティア活動に取り組む主婦(63)は「新しい施設がいろいろできて便利だけど、借金が多いんでしょ? 今春も市職員の1割近い60人近く退職したみたいですよ」と嘆く。 昨年2月に就任した酒井隆明市長(53)は就任後、「財政運営は立ち行かなくなる」と宣言した。財政が破綻(はたん)して財政再建団体(※(2))となる「第2の夕張」が現実味を増してきたためだ。 優等生が転落した原因は明らかだ。国からもらった「アメ」の使い方を間違えたのだ。合併に伴う優遇措置として地方自治体に与えられた合併特例債(※(3))。この巨額予算を、採算のとれない建造物(ハコモノ)に投入した。 中学校の移転改築に25億円、斎場に19億円、図書館に17億円、市民センターに13億円…。特例債は全国で初めての適用だったこともあり、篠山市は「使わなければ損だ」(市幹部)とばかり、積極的に活用して建設ラッシュに沸いた。 もう一つは、地方の自立を促すはずの三位一体改革(※(4))の結果、地方交付税(※(5))が予想以上に削減されたためだ。 「一つ一つの施設がぜいたくざんまいだ。財政収支見通しの誤りとしかいいようがない。行政改革どころか、逆に図体と借金ばかりが大きくなった」 負の遺産を背負った酒井市長は憤りをみせる。気が付けば、合併特例債を活用した事業は231億円に達し、市の借金は1000億円規模に膨らんだ。 元市議の森本長寿氏(74)は、「合併直後からハコモノ行政をやめて使い方を見直すべきだと市議会で訴えたが、聞き入れられなかった」と振り返る。合併特例債も借金であることに変わりはない。冷静に考えればだれでも分かるこうした指摘を、合併特需と全国的な注目を集めた当時のムードがかき消した。 ◇ 篠山市誕生からおよそ2年後、「地方にできることは地方に」と改革路線を訴える小泉純一郎氏が首相に就任し、大合併の機運を後押しした。三位一体改革による税源移譲。地方自治体の裁量に任される予算が増えるという触れ込みに、篠山市も欣喜(きんき)した。 だが、思惑ははずれた。 移譲額で増えた税収よりも削減額の方が多かったのだ。国から篠山市への交付税は三位一体改革後、約15億円減った。合併当初の財政計画で18年度に173億円と想定した歳入(市税と交付税の合計)は141億円にとどまり、32億円の差が生じた。増田寛也総務相も「三位一体改革による交付税削減のスピードは自治体にとって大変つらいものがあった」(今年2月の参院総務委員会)と認めざるを得なかった。 人口減も目算を狂わせた。 市は21年度の人口を、合併時よりも約1万3000人多い6万人と想定していたが、過疎は進んだ。 ツケは住民にまわされた。水資源が不安定な篠山地域は4年前から県営水道の受水を始めたことへの投資と、人口増を前提にした誤った需要予測もあり、水道料金が約3割アップした。3年後にはさらに4割上がる見込みで、住民からは「節水を心がけたら、市の人から『もっと使わないと、もっと高くなる』といわれた」との声が出る。 酒井市長は「財政破綻は不可避だ」と宣言するとともに、諮問機関「篠山市民再生会議」を発足させた。 再生会議が昨年11月に提出した「篠山再生計画」の1次答申は、「合併後は、人口も歳入も増えるはずだという固定的な発想から抜け出すことができなかった」と指摘した。 合併推進派だった森本氏は、「結局、国にうまく使われた。でも、そこを見抜けなかったのは地方の弱いところでもある」と話す。 酒井市長は秋にも再生計画を提示する。毎年15億円程度発生する赤字を解消し、財政破綻回避に必要な歳出2割削減を実現するため、支所廃止や公的施設の休止、合併時から約25%減らした職員数のさらなる削減も検討する考えだ。 酒井市長は「こうなった以上は、今の取り組みを合併自治体の再生モデルにしたい」と語る。 大合併の先駆者が、再生の先駆者として注目される日は訪れるのか−。 ◇ ■佐渡市 観光資源の「祭り」次々と中止 新潟県佐渡市も合併の後遺症に悩む。地域の絆(きずな)であり、貴重な観光資源である祭りが消えつつある。 散りゆく桜の木の下を豪華な衣装をまとった太夫が練り歩く「おいらん道中」。佐渡市の羽茂地区で4月20日に行われたこの祭りは、13年目の昨年、突然中止された。 今年は地区住民の努力で何とか復活させることができたが、佐渡島では1市7町2村が合併し、人口約7万人の佐渡市が誕生した平成16年3月、約40の祭りが姿を消した。合併までは、地域のイベントに行政がヒトも金も援助していたが、それが、合併であてにできなくなったからだ。 佐渡観光協会中央支部長の浅野彰氏は、「祭りやイベントの事務局には役場の職員が参加していた。それが、合併後は地域に『丸投げ』だ。補助金は毎年減らされ、祭りはとてもできない」と嘆く。 20年度予算で祭りやイベントへの補助金は約5600万円。前年度よりも約1400万円も減った。 ピーク時の3年度に約123万人だった佐渡島への観光客は、18年度は半数近くの約65万人に落ち込んでいる。 浅野氏はいう。「合併で、観光の島から、観光が消えていく」 ◇ ※(1)平成の大合併 住民に身近な行政の権限を地方自治体に移す地方分権の推進や国と地方自治体の財政力強化を目的に、政府が平成11〜16年度にかけ、旧合併特例法(17年3月で期限切れ)などの手厚い優遇措置を講じて市町村合併を進めた。篠山市誕生の直前(平成11年3月31日)には3232自治体だった市町村が、現在1788まで減少している。 ※(2)財政再建団体 民間企業の倒産に相当し、自治体の標準財政規模に占める赤字額が市町村で20%を超えた場合、国の管理下で財政再建を進める。再建団体は自治体独自の行政サービスが制限され、平成19年3月に北海道夕張市が再建団体に移行した。昨年末には、歳入に占める借金の割合を示す実質公債費比率などの指標を加え再建団体の基準が改められた。 ※(3)合併特例債 合併した自治体が合併後の10カ年度にわたり、さまざまな事業の財源として借り入れることができる地方債。合併特例債により対象事業費の約95%を起債でき、元利償還金の70%が国の地方交付税で負担される。期間限定の歳入増は、篠山市のように「ハコモノ」建設に投入されるケースがあり、地方自治体の財政を圧迫する要因ともなっている。 ※(4)三位一体改革 地方分権を視野に国と地方の税財政のあり方を見直す改革。国が使途を決めて地方に支出する国庫補助金を削減し、地方が自由に使える税源として移譲。地方の財源不足を補う地方交付税の見直しを含めた3者を並行して実施した。平成16〜18年度の間に補助金が4.7兆円、地方交付税などが5.1兆円削減された。税源移譲による増収よりも減収分が大きい自治体は交付税の増額を要求している。 ※(5)地方交付税 地方自治体の財源に不均衡が生じ、自主的な運営に支障が出るのを是正するため、国が一括して地方税の徴収を代行して自治体に配分する税。国の予算から支出される。国庫補助金と異なって使途が限定されない一般財源として使える。財源不足団体へ交付する「普通交付税」と災害対策などで緊急に支出が必要となった際の「特別交付税」がある。平成20年度の地方交付税の総額は15兆4061億円。 産経新聞
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